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横浜地方裁判所 昭和50年(ワ)449号 判決

原告

塩田省吾

右訴訟代理人

佐藤泰正

原告

美濃部勇

右訴訟代理人

佐々木功

被告

株式会社

見村鉄骨工業所

右代表者

見村清

右訴訟代理人

菅沼漠

外一名

被告

駒岡鋼業株式会社

右代表者

登倉精一

右訴訟代理人

平川亮一

主文

一  被告株式会社見村鉄骨工業所は

(一)  原告塩田省吾に対し別紙第二目録記載の建物のうち同第一目録記載(一)の土地上にある部分を収去して右土地を明け渡し、かつ、昭和四九年二月一日から右土地明け渡し済みに至るまで一か月金四万八〇〇〇円の割合による金員を支払え。

(二)  原告美濃部勇に対し別紙第二目録記載の建物のうち同第一目録記載(二)の土地上にある部分を収去して右土地を明け渡し、かつ、昭和四九年二月一日から右土地明け渡し済みに至るまで一か月金四万八〇〇〇円の割合による金員を支払え。

二  被告駒岡鋼業株式会社は

(一)  原告塩田省吾に対し別紙第二目録記載の建物のうち同第一目録記載(一)の土地上にある部分から退去して右土地を明け渡せ。

(二)  原告美濃部勇に対し別紙第二目録記載の建物のうち同第一目録記載(二)の土地上にある部分から退去して右土地を明け渡せ。

三  原告塩田省吾のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

(原告塩田省吾)

(一) 被告株式会社見村鉄骨工業所(以下被告見村鉄骨工業所という)は原告塩田省吾(以下原告塩田という)に対し別紙第二目録記載の建物(以下本件建物という)のうち同第一目録記載(一)の土地(以下本件(一)土地という)上にある部分を収去して右土地を明け渡し、かつ、昭和四九年二月一日から右土地明け渡し済みに至るまで一か月金二五万円の割合による金員を支払え。

(二) 主文第二項(一)および第四項と同旨

(三) 仮執行の宣言

(原告美濃部勇)

(一) 主文第一項(二)、第二項(二)および第四項と同旨

(二) 仮執行の宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張〈以下省略〉

理由

一まず、被告見村鉄骨工業所に対する請求について判断する。

被告見村鉄骨工業所に対し、原告塩田は昭和四三年一二月二三日本件(一)土地を、原告美濃部は昭和四四年一月八日本件(二)土地を、それぞれ建物所有の目的で賃貸して引き渡したことおよび被告見村鉄骨工業所がその後本件(一)(二)の土地に跨つて本件建物を築造したことはいずれも当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、

1  貸借当時、本件(一)(二)土地の周辺は未だ田園地帯であつたため、原告らはいずれも、差し当つてこれを利用するつもりはなかつたが、本件(一)(二)土地が横浜、川崎という大都市圏内にあるので、数年のうちに周辺の宅地開発が進み市街化するであろうとの見通しの下に、そうなつた場合には、本件(一)(二)土地上に建物を築造して右各土地を効率的に活用したいと考えていたこと

2  原告塩田は昭和四三年一一月ごろ、被告見村鉄骨工業所から本件(一)土地を賃借したいとの申込みを受けたので、この土地については右のような考えがあることを説明したところ、それまでの間でも使用させてほしいということなので、貸借期間は昭和四四年二月一日から同四九年一月三一日までの五年間とし期間満了の際は直ちに本件(一)土地を返還するほか、期間満了前であつても六か月の予告期間をもつて双方から解約申入れをすることができること、本件土地上に築造する建物は鉄骨スレート葺作業場としコンクリートの基礎を打つても撤去に支障とならない構造とすること、という約定の下に賃貸することとし、賃借に際し、当事者間に取り交された契約書にもこのことを明記したこと

3  そのあと、原告美濃部は被告見村鉄骨工業所から本件(二)土地を賃借したいとの申込みを受けたので、原告塩田と同様、この土地については右のような考えがあることを明らかにしたうえ、本件(一)土地と全く同一の条件で本件(二)土地を賃貸することとし、貸借に際し、当事者間に取り交された契約書にも右条件を明記したこと

4  本件建物は倉庫であつてコンクリート基礎の上に建てられているものの、鉄骨を組み合わせて屋根と周囲にスレートを張つたものであり、その耐用年数や強度は通常の建物に劣ることはないが、内部の構造も比較的単純で取り壊すのにも通常の建物ほどの困難は伴わないこと

5  本件(一)(二)土地の賃料は当初それぞれ一か月金二万四〇〇〇円と定められ、貸借に際して当事者間に取り交された契約書には、貸借期間中公租公課の増徴その他の理由により必要と認めたときはいつでも増額することができる旨の定めがあつたが、原告らはいずれも貸借期間が五年間に限られているためこれを据えおいたこと

6  その後、本件(一)(二)土地の周辺は市街化したかどうかは別として貸借期間中に宅地開発が進み建物も次第に立て込んできて都市計画法上の準工業地域になつたこと

以上の事実が認められ、〈証拠判断略〉。

右認定の事実によれば、本件(一)(二)土地の賃貸借については、賃借に際し、当事者間にこれを一時使用のための賃貸借とする旨の合意が成立したことが明白であり、客観的にみてもその貸借期間を短期間に限定したのには合理的な理由があると認められるから、右賃貸借は貸借期間の最終日である昭和四九年一月三一日の経過とともに期間満了により終了したものというべきである。

そこで、土地明け渡し義務の遅滞による損害金の数額について検討するに、〈証拠〉によれば、貸借に際し、被告見村鉄骨工業所は原告らとの間で、それぞれ貸借期間を経過しても本件(一)(二)土地を明け渡さないときは、被告見村鉄骨工業所は原告らに対しそれぞれ貸借期間満了の翌日から土地明け渡し済みに至るまで賃料の倍額に相当する損害金を支払うことを約したことが認められる。原告塩田は、被告見村鉄骨工業所の土地明け渡し義務の遅滞により貸借期間満了の翌日から一か月金二五万円の損害を蒙つていると主張するが、右認定の事実によれば、貸借に際し、原告塩田は被告見村鉄骨工業所との間で、原告塩田が被告見村鉄骨工業所の土地明け渡し義務の遅滞によつて蒙る損害として賃料の倍額に相当する額を予定したものというべきであるから、原告塩田は、それ以上の損害を蒙つていることを主張立証しても右の限度を超えた損害の賠償を求めることはできない。

したがつて、被告見村鉄骨工業所は、原告塩田に対し本件建物のうち本件(一)土地上にある部分を収去して右土地を明け渡し、かつ、貸借期間満了の翌日である昭和四九年二月一日から右土地明け渡し済みに至るまで賃料の倍額に相当する一か月金四万八〇〇〇円の割合による損害金を、原告美濃部に対し本件建物のうち本件(二)土地上にある部分を収去して右土地を明け渡し、かつ、貸借期間満了の翌日である昭和四九年二月一日から右土地明け渡し済みに至るまで賃料の倍額に相当する一か月金四万八〇〇〇円の割合による損害金を、それぞれ支払う義務がある。

二次に被告駒岡工業に対する請求について判断する。

請求原因事実については当事者間に争いがないので、被告駒岡工業の抗弁について検討するに、被告見村鉄骨工業所が、昭和四三年一二月二三日原告塩田から本件(一)土地を、昭和四四年一月八日原告美濃部から本件(二)土地をそれぞれ建物所有の目的で賃借し右各土地上に本件建物を築造したことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、被告駒岡鋼業は昭和四八年一一月一日被告見村鉄骨工業所から本件建物を賃借したことが認められる。しかしながら、原告らと被告見村鉄骨工業所間の本件(一)(二)土地にかかる賃貸借が貸借期間の満了により終了したことは前述のとおりである。

したがつて、被告駒岡鋼業は本件建物を占有使用することによりその敷地である本件(一)(二)土地を使用権原なくして占有していることになるから、原告塩田に対し本件建物のうち本件(一)土地上にある部分から退去して右土地を、原告美濃部に対し本件建物のうち本件(二)土地上にある部分から退去して右土地を、それぞれ明け渡す義務がある。

三よつて、原告塩田の本訴請求は右説示の限度で理由があるからその範囲で正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却すべく、原告美濃部の本訴請求は理由があるから正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

なお、仮執行宣言の申立てについては相当でないと認めてこれを付さない。

(大塚一郎)

〈別紙第一、第二目録省略〉

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